徳島県が生んだ唯一の首相である第66代内閣総理大臣三木武夫。その記念碑が令和2年3月、土成町の実家跡地に建てられました。その完成に際し、ここでは、三木武夫の人となりと功績、故郷土成との関わり、そして記念碑設置の経緯についてご紹介します。



三木武夫について

1)経歴

1907年(明治40)、徳島県板野郡御所村(現・阿波市土成町)で、三木久吉・タカノの元に生まれた。遅くにできた一人っ子で、両親の愛情をうけ、大切に育てられた。子供の頃の成績は目立たなかったが、人前で臆せず話し弁が立ったという。

御所村尋常高等小学校を卒業後、徳島県立商業学校、中外商業学校にて弁論部で活躍。明治大学法学部に進学し、雄弁部に所属しキャプテンを務める。約一年に及ぶ米国遊説旅行をした後、欧洲へ渡り各国情勢を見て回った。その後、四年にわたり米国に留学し、学業のほかに講演、新聞記者、教員、貿易など様々な経験を積み見聞を広めた。

1937年、明治大学法学部を卒業とほぼ同時に、衆議員選に立候補。当時最も若い30歳で初当選し、連続19回当選。議員在職は51年に及んだ。運輸相、通産相、外相、環境庁長官などを歴任し、1974年、田中角栄首相の退陣を受け、第66代内閣総理大臣に就任。1976年退陣。1988年(昭和63)、議員在職のまま81歳で死去。国会議事堂の衆議院玄関には「衆議院名誉議員」として尾崎行雄とともに胸像が置かれた。菩提寺は土成町にある神宮寺。

2)政治家・三木武夫

三木は、自らを「議会の子」と称し、議会制民主主義に立脚した政治を大切にした。「人、信無くば立たず」を座右の銘とし、政治は国民の信頼を得なければ成立しないとの信念から、国民との対話である演説に全力を尽くした。小柄だが声は大きく良く通り、自分の言葉で語りかける演説には人を惹きつけ納得させる力があった。

青空市場での対話

派閥政治を嫌い、一貫して金権政治を批判し、政治浄化を訴えた姿勢から「クリーン三木」とも呼ばれる。三木内閣では政治資金規制法の強化に取り組み、政治家人生をかけた課題とした。

サンファン・サミット

また、青年時代に海外を巡り世界情勢を見て政治を志したことから国際派政治家として知られた。戦前は日米開戦に反対し、翼賛候補とはならずに選挙を戦った。戦後は、対話による外交が世界平和への道であるという思いから、各国首脳と積極的に会見し、国際的人脈を築いた。アジア外交重視の姿勢を見せ、オイルショック危機に中東を歴訪して中東和平を説き、総理就任中に始まった先進国首脳会議に初回から出席し南北問題を提起、また日中国交正常化に尽力した。


故郷とのかかわり

1)三木を育てた時代と土成町

三木武夫が生まれ育った明治末期から大正にかけては、産業経済が発展し、デモクラシー思想が移入した近代日本の変革期であった。全国津々浦々で弁論活動が盛んになる中、弁論が得手だった三木は小学校や徳商でも実績を積み、社会の課題へと目を向けていった。

当時の土成町は、温暖だが水利に乏しい畑作中心の農村で、徳島県の中でもとりたてて裕福な土地ではなかった。三木家自体も、農業と肥料商をしていたとはいえ、富農だったとは言えない。こんな片田舎の農家から、弁論を武器に身一つで中央へ世界へと出て行き、一国の首相にまでなった三木の強さ、それを可能にした時代と、支えた地域の懐の深さを思わずにいられない。

土成には三木武夫関連スポットがいくつかある。土成歴史館には勉強机や洋行トランク等の所持品、書などの資料を所蔵している。土成町図書館には中庭に自身が植樹した木があり、土成中央公園には孤高に風に立ち向かうかのような銅像が立っている。

土成町史より
土成町史より

2)土成中学校 校歌

金権政治を排し利益誘導を好まなかった三木が、故郷に残した最も大きな遺産は、土成中学校の校歌だといえよう。同校の校歌は三木武夫自身による作詞、作曲は同じく明治大学出身の古賀政男である。昭和37年、母校の御所尋常高等小学校が合併して土成中学校が創設された際、当時の町長と初代校長の依頼を受け、激務の合間に作詞したと言われている。

若き日に理想に燃え大志を抱いた三木の熱い思いを色濃く反映した歌詞であり、古賀政男作曲の重厚でドラマチックなメロディとともに、壮大な世界を想起させる特徴的な校歌となっている。青少年の育成にも心を砕いた三木ならではの、故郷への贈り物だといえる。

「土成中学校校歌」
作詞 三木 武夫
作曲 古賀 政男

1.吉田が丘の 青嵐

  語るか栄枯は 夢にして

  祖国の歴史 悠かなり

  若き生命の 尊しや

  ああ われらが

 われらが土成中学校

2.阿波の大野に 夕されば

  月影皎し 高越山

  げに若き日の 暮れやすく

  いどめばきびし 学の道

  ああ われらが

    われらが土成中学校

3.阿讃の山脈 空に尽き

  吉野の流れ 遠白し

  大志は胸に ふくらみて

  若き瞳は かがやけり

  ああ われらが

    われらが土成中学校 

自筆歌詞・土成歴史資料館所蔵
自筆歌詞・土成歴史資料館所蔵

3)実家

 三木武夫の実家は、農業用の肥料を扱う商売をしていた。実家の家屋(~2019年)は決して贅沢なつくりではなく、むしろ質素で、学校のような佇まいであった。

選挙の時は事務所として使われ、大勢の人が出入りした。三木が帰郷した際には、「先生が帰っとるけんお話を聞きに行こう」と近所の人が集まって、演説会のようになったという。

土成町史より

三木武夫記念碑について

1)経緯と概要

土成町御所にあった三木武夫の実家跡地は、親族により平成30年に阿波市へ寄贈された。阿波市は、遍路道沿いでもあるこの地をおもてなし公園として整備。その一角には、市民の手で三木元首相を偲ぶ空間を作ることになり、三木武夫記念碑制作委員会が発足した。委員会では、阿南工業高等専門学校創造技術工学科の学生にデザイン提案を依頼。学生は、地域で受け継がれている三木のイメージを聞き取りなどで丁寧に掘り起こし、形にあらわした。

その結果、三木元首相の信念であった「人、信なくば立たず」の言葉を刻み、人の文字をかたどった碑を作ることになった。なお、この書は、祝賀の際に地元で配られた袱紗に印字されていた三木武夫自筆によるもので、論語の「無信不立」の上に「人」を加えた、三木独自のものとなっている。また、記念碑の土台部分には、実際に母屋の家屋下に使われていた基礎石を並べて配置し、三木武夫の足跡をより身近に感じられるものとした。

記念碑設置により、ふるさとの誇りである三木元首相をしのび後世に伝えられるとともに、お遍路などで訪れる国内外の方々にも三木元首相の足跡とその精神に触れられる場所となり、交流の拠点となることを目指している。

また、おもてなし公園内にあるケヤキは、かつて「三木」を意味して植えられた三本の株立ちである。中庭には三木武夫が好んだハナミズキの木があり、その下には母屋の上り口に置かれていた踏み石が残されており、記念碑と併せて三木を偲べるものとなっている。

阿波市おもてなし公園(阿波市土成町吉田 三木邸跡地)
記念碑

2)三木武夫記念碑制作

◇企画:三木武夫記念碑制作委員会
◇デザイン:国立阿南工業高等専門学校創造技術工学科学生
◇工事:日本石材センター㈱/㈲原コーポレーション/㈲桑村石材工業
◇協賛:制作費については、地元自治会をはじめ阿波市内、徳島県内、及び全国に広く呼び掛け、合計673名の個人、団体から協賛金を頂き記念碑完成に至った。(※五十音順敬称略。公表応諾者のみ以下掲載)
◇竣工:令和2年3月17日

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