たらいうどん

耳をすますと、さわさわと木々をゆらす風の音。
川のせせらぎも心地いい自然の中でたらいを囲み、みんなで豪快に食べる。
それが、御所のたらいうどんです

御所地域のある阿波市土成町には、『月夜にヒバリが足を焼く』という古いことわざが残っています。太陽が沈み夜になっても、畑に降りたヒバリの足がやけどするほどの熱い地面とは、想像がつきません。そんなことわざが残るほど、この地域は雨が降らない乾燥地帯でした。そこに適した作物が小麦だったのです。

 

 

こうして、御所地域では小麦栽培がさかんになり、小麦粉を使った食文化が生まれました。団子を味噌汁に入れたすいとん、サルトリイバラの葉で包んだ蒸しだんご、小麦粉を練り、うすく焼いたホットケーキのような鍋焼きなどがよく食べられていました。大切なお客さんがやってきた時や、お祭りなどのハレの日には、それぞれの家でうどんを打って、ふるまいました。
たらいうどんは、林業がさかんだった頃、御所地域に流れ込む宮川内谷川を使って木を運搬した樵木(こりき)流しがその起こりだと言われています。ここで働く作業員さんの仕事納めに河原でうどんをふるまっていたのです。人数が多いので、ひとりひとりつぎわけるのが面倒なため、ゆでた釜から直接うどんを引き上げて食べていました。その後、釜から(たらいのようなもの)に形を変えて、食べられるようになりました。

 

麦刈り町史
御所たらいうどんじんぞく狩り

たらいうどんの名がついたのは、昭和6年。当時の土井通次・徳島県知事が「たらいのような入れ物に入ったうどんがおいしかった」と語ったことが人々に伝えられて、「御所のたらいうどん」と呼ばれるようになったと言われています。だしには、淡泊で風味があるジンゾクが使われていました。ジンゾクは、清流に生息するハゼの一種のカワヨシノボリという魚のことです。以前は、お客さんが宮河内谷川で川遊びをして、ジンゾクを取り、そのままだしにしてうどんを食べていたこともあるそうです。今もすべての店ではありませんが、ジンゾクの懐かしい味を楽しめるところがあります。

仕事や川遊びの後に、ハレの日に、暮らしの中で生き続けてきたたらいうどん。今も、それぞれの店が試行錯誤して、自家製の麺やだしを作り続けています。また、店によってさまざまなサイドメニューがあるのも楽しみのひとつ。野趣あふれる沢ガニのてんぷら、焼き鳥、釜飯など、どれを食べようか迷ってしまいそうです。

釜めし
鶏のタレ焼き
沢ガニの素揚げ (※一天たらいうどんには沢ガニの取扱いはございません)

 

最後に大切なことをお伝えします。

たらいうどんの上手な食べ方は、まず数本のうどんを箸でつまみ、少し持ち上げます。そのままたらいのふちを滑らせて湯を切り、だしのお椀に入れます。そうすると、だしが薄くならず最後までおいしく食べることができます。

断面も美しいうどん

家族で、仕事仲間と、友だちとたらいうどんを食べに来てください。
丸いたらいを囲んでうどんを食べればみんな笑顔に。心も丸く。

 


四季折々の風景のなか、湯気のぼるたらいうどんを心ゆくまで味わってください。